Angel (2007年) / フランソワ・オゾン
そういえばこの映画、最初に見た時、ちょっとした嫌悪感みたいなのを感じて、ドヨ~ン!と沈んだものでした。
原作者が作り上げたヒロインもヒロインなんですが、こういうヒロインをスクリーン上に、ドーンと描きあげてくれちゃった、オゾン監督に苦手意識が湧いたというか。
でも、不思議と「二度と見ない!」ってわけじゃなくて、コンディションのいい時に、また見直してみることで、きっと認識が変るだろう、という確信もありました。
ということで、二回目の鑑賞。
■続き
あらすじ
夢見る乙女エンジェルは、その類まれな想像力と、文を紡ぐ才能によって、若くして一躍流行作家に成り上がります。
崇拝者を得、ハンサムな夫をゲットし、憧れだった屋敷の女主人となり、まさしく世界はエンジェルを中心に回っていたのです。
ただ、視点の位置を少々ずらすと、その世界は一変します。
エンジェルの信じた幸せは、エンジェルの想像力が見せた、エンジェルにとって、都合のいい解釈の賜物でした。
その魔法がとけたとき、あらわになった現実は、エンジェルにとってあまりにも残酷なものでした。
感想
想像力に満ちている、ということは、クリエイティブな才能に恵まれている、ということですよね?
モノを作りたい人間にとって、喉から手が出るほど求めて止まないその才能!
なのに、まぶしく輝くその才能に、こんなトラップがあったとは!
自慢じゃないけど、アタイにも、「もし自分が水戸黄門様だったら、お前なんか助さんと格さんに言いつけて、控えおろう~~~ってしてもらうかんな!!!」ぐらいの妄想力はございます。
いや、近所にね、狭い道ですれ違うとき、シモジモのアタイがバックするのが「当然」みたいな顔をして、自分はぜったいにバックしない、レクサス乗りのオッサンがいましてな・・・。
が、エンジェルに比べるまでもなく、アタイの想像力の小っささは自覚済み。
水戸黄門トリップにしろ、せいぜい5分程度しか、持続性がないのです。
だがこの映画を見たことで、「アタイ、凡人で助かった!」と我にかえることができました。
妄想の、出口がないのは、アタイの感覚では不幸です。
つーか、才能というものは、あればあるほど渾身の制御が必要とされる、モンスターなのかも知れませぬ。
その力を、自分が支配できるならいいのだが、エンジェルのように想像力に支配されてしまったら、それは「生きる」というよりも、昏睡状態で夢を見ているようなモノなのでは・・・とか思う。
最後の最期まで幸せだったら、本人は別にそれでもいいんだろうけど、周りの人は大変だろうな・・・・。
なんせエンジェルのようなエキセントリックなキャラが、長く幸せでいられるためには、せめて誰かによほど深く愛される必要がありますよね?
しかし、その役目を果たしたのは、エンジェルが目もくれなかった相手であった、という皮肉さ。
ただ、このお話の残す傷跡が、妙に美しく感じられるのは、その皮肉ゆえのことなのかも・・・。
ちなみに、エンジェルは、自信過剰で自己中心的で鼻持ちならないキャラなので、好きになれといわれても困るしかないんですけど、演ずる ロモーラ・ガライが可愛いので、不思議な魔法がかかってます。
ところがアンジェリカ(パラダイスのもとお嬢様)と並んだとたん、エンジェルの魅力が、ものの見事にさーっと褪せます。
その対面シーンは第三者の目による「現実」の最たるもので、「辛らつ!」と言う以外言葉が出ませぬ。
ぶっちゃけこれで、アタイのごとき小心者は、オゾン監督の人の悪さに、やられてしまうのでタチが悪い(深めの意味で)。
そうそう、お話の中で、エンジェルの想像力によってコーティングされたシーンは、徹底的にウソっぽく描かれているので、意図はわかりやすかったです。
プロポーズに答えるエスメとか、光あふれるアトリエを、受け入れるエスメとか、マイケル・ファスベンダーの表情ひとつに翻弄される。
あと、エンジェルのまとう、場違いであろう衣装とか・・・、チクチクとした見どころが、随所に仕込まれていてなんとも後をひくお話であります・・・。
憧れの豪邸「パラダイス」は、エスメに「巨大な棺桶」みたいな呼ばれ方をするんですけど、主人が移り変わることで、パラダイスの役割もまた変わり行く、ラストシーンのせつなさよ・・・。
「エンジェル」データ
- Angel (2007)イギリス・ベルギー・フランス
監督
- フランソワ・オゾン
出演
- ロモーラ・ガライ(エンジェル・デヴェレル)
- シャーロット・ランプリング(ハーマイオニー・ギルブライト)
- ルーシー・ラッセル(ノラ・ハウ=ネヴィンソン)
- マイケル・ファスベンダー(エスメ・ハウ=ネヴィンソン)
- サム・ニール(セオ・ギルブライト)
- ジャクリーン・トン(エンジェルの母親)
- ジェマ・パウエル(アンジェリカ)
- ジャニーン・デュヴィツキ(ロッティ叔母さん)
- クリストファー・ベンジャミン(ノーリー卿)